奄美大島で白蝶真珠やマベパールの養殖を成功させた最大の要因は、天然貝に頼らない人工採苗技術を確立したことにあります。この最初の工程が養殖を成功に導くかどうかの最大の関門になります。
採卵時期は4月~7月で、先ずできるだけ健康で美しい貝を選び、それを親貝として放卵~受精させます。生まれてきた赤ちゃん(幼生)の大きさは75ミクロンぐらいで、幼生から母貝として生き残るのは0.1%ぐらいしかありません。
ちなみに、真珠養殖では真珠を採取する貝を母貝、採卵するための貝を親貝と称しています。
孵化した幼生は採苗室の飼育プールで育てられます。沖から汲み上げた海水を更に濾過し、また年間通して一定の水温になるようにコントロールされた海水の中で、丁寧に育てられます。幼生の餌は植物プランクトンですが、これもまた採苗室で培養しています。まるで化学実験室のような場所で、十分な光と栄養を与えられて育てられています。
孵化してから約50日程度、貝が2mmぐらいの大きさになると、採苗室から海上の筏に移され、稚貝から母貝へと本格的な養殖へと移っていきます。
採苗室から出てきたばかりの稚貝は、先ず湾内の比較的穏やかな環境の場所に置かれます。貝が成長するにつれて一個ずつ切り離して、サイズに合わせた目合いのかごに入れ替え、潮通しの良い場所に移します。最初はゴマ粒のような大きさだったのが、4年目には真珠をつくれる程の大きさ(マベは約20cm、白蝶貝は約12cm)にまで成長します。その間、貝の成長に合わせて何度も篭を替えていきます。マベは3年目になると、貝殻の根元に針で穴を開けて、そこにナイロン糸を通し、これでロープと結びつけ、そのまま海の中に吊します。
海中の貝に、藻類が覆ったり、フジツボが付いたりすると、貝が餌を食べることができなくなります。そこで定期的に高圧洗浄機で篭ごと貝の汚れを洗い流しますが、カキやフジツボが付いた場合には一個ずつ包丁でこそぎ落とします。
白蝶貝は4年目から5年目で、核入れを行います。貝台に乗せた貝の口を少しだけ開き、メスで脚に切り口を付け、そこから球形の真円核と、真珠質を分泌する貝肉の切片(ピース)を、貝の生殖巣に挿入します。
マベは4年目から5年目で、核入れを行います。棚に貝を静かに並べておくと、しばらくすると貝は自然に口を開けます。貝にショックを与えないよう慎重に開殻器を差し込み、外套膜をそっとはがして核を貝殻に接着します。核は、1個の貝に1~3個接着します。円形の核を入れれば円形、ハート形の核を入れればハート形の真珠ができあがります。
マベに挿核して約2年、真珠の収穫となる浜揚げが行われます。浜揚げは、海の状況や貝の生育状況にもよりますが、通常は1月~5月に行われます。マベでは核を貝殻に接着させているため、真珠を取り出すには貝殻を切り抜く必要があり、その工程に多くの人手がかかります。貝を揚げる、小分けにする、切断する、剥く、洗浄する、珠を抜き取る、磨く、整理する、選別する…、それぞれの工程で大勢のスタッフが働いています。